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「小さな声を話そうとする人と、

   小さな声を聞こうとする人。

   その作用と反応。A,B,C。」

           新たな映像作品と、鑑賞体験の催しについて。

 

こちらには、展示会場でのパフォーマンスから生まれた、

新たな映像作品「小さな声を話そうとする人と、小さな声を聞こうとする人。その作用と反応。A,B,C」(A「ことばでいわうこと。または、ながいいのち。」 B「 HとJとミニ」 C 「おもちゃの国のワルツ」)がアップロードされています。

 

また、パフォーマンスに関連して、実験的に会場にて行われた、鑑賞体験の映像がアップロードされています。​

映像は、お持ちの携帯やデバイス、もしくは会場に設置されているDVDプレーヤーからご鑑賞ください。

⚠️鑑賞はできる限り、会場内でお願いいたします。また、ダウンロード等はお断りしております。

​ウェブページで再生される際は、右下の♫マークをクリックすると、音声が再生されます。

1.映像作品「小さな声を話そうとする人と、小さな声を聞こうとする人。その作用と反応。A,B,C。」のうちから、

C「おもちゃの国のワルツ」

2.鑑賞体験についての実験「小さな声を話そうとする人と、小さな声を聞こうとする人。その作用と反応。A,B,C。」のうちから、A「ことばでいわうこと。または、ながいいのち。」記録映像。

実験に参加した人の声。

 

 

僕がゴミ袋に入った後に

 

 自分に語る権利はあるのだろうかと、後退りしてしまうことがある。たとえば、見も知らぬ女の子の部屋に、勝手に入ってしまったら?しかもそれが公道に面していて、ドアは丸々窓ガラス。表を通る人たちの顔がよく見える。言い換えると、こっちの顔も向こうに筒抜け。そして、ドアに鍵はかかっていない。その気になれば誰だって侵入できる。そういう半透明な、半分開かれていて、半分閉じている怖い空間。

 「私がゴミ袋に入る前に。」それが、この空間に与えられた名前だ。たしかに、部屋の奥にはゴミ袋が置いてある。中には雑然と、どうしようもない「ゴミ」たちが詰め込まれていて、ただそこに置いてあるだけなのに、ガサゴソという音を連想させて気持ち悪い。ゴミ袋の周りには紐でくねくねと境界線が引かれていて、床にDon’t touch me!という伝言もくっきりと残されている。だから、僕は最後までゴミ袋に触ることがなかったし、ゴミ袋の方もただじっとそこに置かれているだけだった。

 ゴミ袋から書き始めてしまったけれど、多分部屋に入って最初に目につくのは、ドアを開けてすぐ右、窓辺の机だ。化粧品、僕には名前のわからない無数のメイク道具たち、ブランドものの香水、コンドーム、ピル、マスキングテープ、メモ帳。机のすぐ下には、お菓子や生理ナプキン、よくわからない箱なんかが雑然と置かれていて、でもここで生きていただろう女の子の息遣いみたいなものが濃厚に感じられて、クラクラする。後退りしている自分がいる。小学3、4年生のころ、急に気恥ずかしくなって、女の子に話しかけられなくなった時期を思い出す。本当に入って良かったのかな、という疑問が、また頭をよぎる。

 多分、この部屋自体が口の開いたゴミ袋なのだ。透明な、たったひとつのドアが公道に向けてポカリと口を開けていて、ガラスを通して部屋の中がなんとなく見渡せる。すごく個人的なもの、普通は隠そうとするものがあまりにも無防備にさらけ出されているから、ほとんどの人は無視するか、少し覗き見て後退りしてしまう。そんな場所。

 仮にこの部屋がゴミ袋だとして、じゃあそこに入ってしまった僕は何なのだろう。やっぱりゴミなのか?ドアをくぐるまでは「にたろ」という名前を持ったひとりの人間だったけれども、一度中に入ってしまえば、袋の中に雑に放り込まれた、他の有象無象と同じゴミになってしまうのだろうか。同じ袋の中に詰め込まれたゴミたちは、お互いのことをどう思っているんだろう。そして、ポカリと開いた口、ゴミ袋の口の先に見える、固有名詞で溢れた世界は、ゴミの目にはどのように映るのだろう。

 ここは不明の世界。外が暗くなるにつれ、この部屋の中も暗くなってゆく。卓上灯と入り口のそばに置かれた間接照明が、優しく暗闇を照らし出す。不明の世界にふさわしいと思う。いっときではあれ、僕も不明であることをイメージできたのだろうか。暗くなって危ない、という風には思わなかった。むしろ居心地の良さを感じる。合成樹脂でできた壁にもたれかかって、自分も不明の一部になろうと息を潜める。

 

 不明は、そんなに生やさしいものではないはずだ。ガサゴソと、ゴミ袋がのたうちまわる音がする。

2022.12.14  にたろ  

 

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